「婚期」★★☆ ― 2007年12月28日 09時59分32秒
1961年大映。カラー。吉村公三郎監督。若尾ちゃんは、妹(野添ひとみ)と結託して、兄嫁(京マチ子)を追い出そうと画策する小姑の次女役。全員がそろって対決する修羅場の場面でもどこか抑制が効いていて、コミカルだけどリアルな演出。宮川一夫の大胆な俯瞰ショットが、家庭内の愛憎劇に一種モダンな印象を与えている。東京タワーのまわりに全く高いビルがない景観だけが時代を感じるが、40年近くたった今日見てもまったく人の世は変わらないという感じ。
「四十八歳の抵抗」★★☆ ― 2007年11月13日 00時24分41秒
1956年大映。モノクロ。石川達三原作、吉村公三郎監督。冒頭から若尾ちゃんと川口浩の濃厚なキスシーンで始まり、ブラジャーだけの下着姿になった若尾ちゃんの大胆な投げキスまで高いテンションのシークエンスが続く。胸にはキスマークがあり、肉体関係があることを暗示している。彼女の父役、山村聡が主役であり、この映画での二人の登場シーンは少ないのだが、どのシーンもとても濃密であり、これほど強烈に恋人同士の絆を感じさせる描き方は数ある共演作でも珍しい。川口が初めて家に訪ねてくるくだりで、二人が父親に分からないようにフランス語で言葉を交わすシーンも印象的だ。山村聡の父親、杉村春子の母親となると「東京物語」の長男夫婦であり、「浮草」の若尾、川口コンビとの組み合わせは小津映画と対比させたくなるが、小津のロー・アングルとは対照的に吉村・中川芳久(撮影)コンビはむしろ俯瞰めにこの家族の姿をとらえていて、次に何が起こるのか予想がつかないような不安定な感覚を観客にたえず与え続けることに成功している。ゲーテの「ファウスト」がモチーフになっていて、メフィストフェレス役の船越英二もいい味を出している。当時日本の人口が9000万人だったというのが台詞からわかる。
「その夜は忘れない」★★☆ ― 2007年04月01日 22時39分56秒

1962年大映。吉村公三郎監督。被爆後十数年たった広島に取材に来た週刊誌の記者(田宮二郎)と実は被爆者であるバーのマダム(若尾文子)との純愛物。謎を秘めた美貌の女性がこれほど似合う人はいない。当時まだ蒸気機関車が特急列車であることに驚く。広島駅での別れのシーンは切なく若尾ちゃんの情感せまる演技も素晴らしい。団伊玖磨の音楽が暗示的で印象に残る。
「大阪物語」 ― 2007年03月19日 23時54分30秒

1957年大映。溝口建二原作、吉村公三郎監督。溝口が「赤線地帯」に続く次回作として準備していたが撮影直前に亡くなったため、追悼作品として吉村監督が撮った作品。中村鴈治郎が強欲な商人を怪演。ラストの演技など、「シャイニング」のニコルソンと双璧である。
「一粒の麦」★★★ ― 2006年08月15日 23時13分02秒
1958年大映。新藤兼人、千葉茂樹脚本、吉村公三郎監督。福島から東京へ集団就職する中学卒業生たちと就職係の教師(菅原謙二)の物語。若尾ちゃんは菅原と結婚する同僚役。「タクシードライバー」の冒頭そっくりの重い音楽が映像に先回りして哀しい先行きを暗示する。暗い話の中で、若尾ちゃんの明るさが唯一の救い。上田吉次郎、十朱久雄、殿山泰司等の脇役陣の演技が重厚で、厳しい都会の現実にリアリティを与えている。
最近のコメント