「沖で待つ」絲山秋子2006年02月12日 14時15分26秒

平成17年度下半期の芥川賞受賞作を文藝春秋3月号で読む。女性総合職の職業を見事に描いた、と選者は言うが、いったいどこが新しいというのだろう。無駄のない文体で住宅設備機器メーカーの営業のディティールをよく描いたのだろうが、例えば川上弘美の「蛇を踏む」にあった新鮮な驚きがない。最初と最後にあるファンタジー部分も、死んだ同僚との約束に関連があるわけでもないし、あとからくっつけたような違和感がある。石原慎太郎はこの作品も含めて候補作全てに、未曾有の新しいものの到来を予感させられるということは一向にないと言い切っている。障子をぶち破るようなブレイクスルーが必要ということか。

「銀齢の果て」筒井康隆2006年02月12日 23時10分11秒

人呼んでシルバー・バトルロイヤル。よくぞこれだけの大人数を登場させて、みんなそれぞれにふさわしい死に場を用意して殺していったものだ。併行して執筆された「巨船ベラス・レトラス」とは対照的に、往年のスラップスティック作品を思わせるハードボイルドな文体で描かれている。映画化を想定した著者理想の配役が発表されているが、若尾ちゃんの名前はない。幸いと言うべきか。